神戸地方裁判所 昭和61年(行ウ)21号 判決 1992年9月30日
兵庫県明石市大久保町山手台三丁目六五-一二
原告
小林浄二
右訴訟代理人弁護士
小沢秀造
同
渡部吉泰
同
高橋敬
兵庫県明石市中崎一丁目六番一六号
被告
明石税務署長 山下喬史
右指定代理人
塚本伊平
同
青山龍二
同
前川昭
同
文垣基
同
佐藤里香
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が原告に対して、昭和六〇年三月四日付けでした原告の昭和五六年分、昭和五七年分、昭和五八年分の各所得税について、総所得金額をそれぞれ金三八四万四、九五八円、金四九五万一、九八〇円、金六六七万四、四三一円とした各更正処分のうち、それぞれ金二四四万二、五〇〇円、金三六万四、四五七円、二四二万二、七六七円を超える部分並びに右各年の各過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原因は、大工工事業を営む者であるが、各法定申告期限までに、被告に対し、別表1の確定申告欄記載のとおり、昭和五六年分、昭和五七年分及び昭和五八年分の所得税の確定申告をした。
これに対し、被告は、昭和六〇年三月四日、原告に対し、別表1の更正処分欄記載のとおりの更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下、両処分を一括して「本件更正処分等」という。)をした。
2 原告は、昭和六〇年四月一八日、被告に対し、本件更正処分等につき異議申立てをしたが、被告は、同年七月九日、右異議申立を棄却する旨の異議決定をしたので、原告は、同年七月三一日、国税不服審判所長に対し、審査請求をしたところ、同所長は、昭和六一年六月九日、右審査請求を棄却する旨の裁決をし、右裁決書は、同年六月一〇日、原告に送達された。
3 しかし、原告の右各年分における事業所得金額及び納付すべき税額は、別表1の確定申告欄のとおりであり、これを超える本件更正処分等は違法である。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は認める
2 同2の事実は認める。
3 同3は争う。
三 被告の主張
1 (推計の必要性)
原告の昭和五六年分、昭和五七年分及び昭和五八年分の所得税の確定申告書は、所得金額欄に所得金額が記載されているのみで、収入金額及び必要経費の記載がなく、所得金額の計算の基礎を欠く不十分なものであった。そこで、被告の部下職員一川悦之は、その所得金額が適正なものかを確認するため、昭和五八年一一月一〇日、原告方を訪れたが、原告は不在であった。その後も、一川は、原告に対し、原告方を訪れたり、電話による連絡をしたりしたが、原告本人に面接することができず、原告は、電話で、「忙しいから来年にせい。」とか「忙しいのに税務署ばかりかもておられるか。」などといって調査に応じようとしなかった。一川は、昭和五九年二月一三日、原告方を訪れて、初めて原告に面接することができ、調査を実施しようとしたところ、原告本人以外に東播建設労働組合員二人の立会いがあったので、その排除を説得したが、原告はこれに応じず、一川は調査を全く進めることができなかった。一川は、その後も、原告方を訪ねて調査を行おうとしたが、原告本人に面接することができず、同年六月一四日になり、ようやく面接することができたが、原告は、被告による反面調査を非難するのみで、調査に協力しようとしなかった。原告は、昭和六〇年二月一日、明石税務署を訪れたので、一川は原告と面接し、原告から、被告の税務調査に協力する意思がないことを確認した。
被告は、このような状態では原告の右各年における所得金額を実額計算することは不可能と判断し、やむを得ず推計により原告の所得金額を算定し、本件の各更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をしたものである。
2 (推計の合理性)
(一) 被告は、原告の本件係争各年分の所得金額を算出するため、原告の事業所の所在地(神戸市西区神出町広谷三七八の八二)を管轄する明石税務署並びにその隣接地域である須磨、加古川、三木の各税務署管内の個人の納税者のうちから、青色申告により所得税の確定申告をしている者で、係争各年分を通じて次の<1>ないし<6>の条件をすべて満たす同業者を抽出したところ、これに該当する同業者は、昭和五六年分については一一名、昭和五七年分及び昭和五八年分については、それぞれ七名存在した。
<1> 大工工事業(但し、型枠大工工事を除く。)を営んでいること
<2> 他の業種目を兼業していないこと
<3> 年間を通じ、継続して事業を営んでいること
<4> 事業所が須磨、明石、加古川、三木の各税務署管内にあること
<5> 売上金額が昭和五六年分二、九〇〇万円以上一億一、四〇〇万円未満、昭和五七年分三、八〇〇万円以上一億五、二〇〇万円未満、昭和五八年分四、三〇〇万円以上一億七、一〇〇万円未満(原告の売上金額を基準として、下限をその約二分の一、上限をその約二倍としたもの)であること
<6> 不服申立て又は訴訟係属中でないこと
(二) 右同業者の所得率及び建物償却率の算定根拠は、別表2ないし4のとおりである。
(三) 右同業者は、原告と営業形態、営業規模等の点において類似性を有するから原告の所得を推計する基礎として適当であり、また、右同業者はすべて青色申告者であるから、その金額等の算出根拠となる資料は正確なものである。したがって、被告が右同業者の所得率を適用して原告の本件係争各年分の所得金額を推計したことは合理性を有する。
(四) 原告は、必要経費のみについて実額に関する主張をしている。しかし、そもそも推計課税は、納税者が実額を算定するに足りる帳簿書類等の直接資料を提出せず税務調査に協力しないため、やむを得ず真実の所得額に近似した額を間接資料により推計し、これをもって真実の所得額と認定する方法であり、実額課税と同様に真実の所得額を認定するための一つの方法であって、課税庁において右推計課税の合理性につき立証をした場合には、特段の反証のない限り、右推計課税の方法により算定された額をもって真実の所得額であると認定するのである。そして、納税者が推計課税の取消訴訟において所得の実額を主張し、推計課税の方法により認定された額が右実額と異なるとして推計課税の違法性を立証するためには、その主張する実額が真実の所得額に合致することを合理的疑いを容れない程度に立証する必要があると解すべきであって、右実額の存在をある程度合理的に推測させるに足りる具体的事実を立証すれば足りると解すべきものではない。事業所得の金額の計算のためには、総収入金額の主張・立証まで必要であるところ、原告は必要経費について主張・立証するのみであるから、原告が主張・立証する金額は、事業所得の計算上、「必要経費に算入すべき金額」、すなわち事業所得の「総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額」とはいえない無意味なものであり、被告主張の推計による事業所得の金額を覆すものではない。
3 原告の係争各年分の事業所得の金額は、以下に述べるとおりであり、この範囲内でした本件各更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。
(一) 昭和五六年分
(1) 売上金額 五、七一九万二、七四五円
被告が把握することができた原告の同年分の売上金額は、別表5のとおりである。
(2) 算出所得金額 六三〇万二、六四〇円
算出所得金額は、右(1)の売上金額に同業者所得率(売上金額から売上原価及び一般経費を差し引いた金額の売上金額に対する割合)の平均値((以下「同業者所得率」という。)一一・〇二パーセント(別表2「同業者率明細表(昭和五六年分)」参照)を乗じて算出した。
五、七一九万二、七四五円×一一・〇二%=六三〇万二、六四〇円
(3) 特別経費((a)+(b)) 九五万五、〇二五円
(a) 建物減価償却費 二二万八、七七一円
原告は、居宅とは別に事業所建物を所有しているが、同建物の取得価額が不明のため、前記(1)の売上金額に、前記同業者率明細表記載の同業者のうち、建物減価償却費のある者の建物償却費率(償却費の金額の売上金額に対する割合)の平均値(以下「建物償却率」という。)を乗じて算出したものである。
(b) 支払利息 七二万六、二五四円
姫路信用金庫明石支店に支払われた金額である。
(4) 事業所得金額((2)-(3)) 五三四万七、六一五円
(二) 昭和五七年分
(1) 売上金額 七、六〇七万九、〇〇七円
被告が把握することができた原告の同年分の売上金額は、別表5のとおりである。
(2) 算出所得金額 八四九万〇、四一七円
算出所得金額は、右(1)の売上金額に同業者所得率一一・一六パーセント(別表3「同業者率明細表(昭和五七年分)」参照)を乗じて算出した。
七、六〇七万九、〇〇七円×一一・一六%=八四九万〇、四一七円
(3) 特別経費((a)+(b)) 六〇万二、四〇七円
(a) 建物減価償却費 一五万二、一五八円
原告は、居宅とは別に事業所建物を所有しているが、同建物の取得価額が不明のため、前記(1)の売上金額に、建物償却率を乗じて算出したものである。
(b) 支払利息 四五万〇、二四九円
姫路信用金庫明石支店に支払われた金額である。
(4) 事業所得金額((2)-(3)) 七八八万八、〇一〇円
(三) 昭和五八年分
(1) 売上金額 八、五六六万一、八二五円
被告が把握することができた原告の同年分の売上金額は、別表5のとおりである。
(2) 算出所得金額 八五六万六、一八二円
算出所得金額は、右(1)の売上金額に同業者所得率一〇・〇〇パーセント(別表4「同業者率明細表(昭和五八年分)」参照)を乗じて算出した。
八、五六六万一、八二五円×一〇・〇〇%=八五六万六、一八二円
(3) 特別経費((a)+(b)) 九一万二、五二九円
(a) 建物減価償却費 五一万三、三七一円
原告は、居宅とは別に事業所建物を所有しているが、同建物の取得価額が不明のため、前記(1)の売上金額に、建物償却率を乗じて算出したものである。
(b) 支払利息 三九万九、一五八円
姫路信用金庫明石支店に支払われた金額である。
(4) 事業所得金額((2)-(3)) 七六五万三、六五三円
四 被告の主張に対する認否
1 被告の主張1のうち、被告に部下職員が原告方を訪れたこと、被告の部下職員から、文書又は電話による依頼があったこと、同職員が昭和五九年二月一三日に原告方を訪れたこと、その調査の際、東播建設労働組合員二名が立ち会ったこと、同年六月一四日に、原告方を訪れた部下職員と面接したこと、昭和六〇年二月一日に原告が明石税務署を訪れたことは認めるが、その余の事実は否認する。原告は、調査の際、第三者の立会いを求めたが、それさえ被告が認めれば、原告には調査を拒否する意思はなかった。これに対し、被告は、第三者の立会いを拒み、その立会いを求めた原告の行為をとらえて、税務調査に非協力と称して推計課税を行ったもので、推計を行う合理的根拠を欠く。
2 同2は不知もしくは否認する。
被告が主張する同業者の選定基準について、仮に三年分まとめて売上の最低限を二、九〇〇万円、最高限を一億七、一〇〇万円とした場合、同業者率はもっと低くなるはずである。
また、売上原価及び一般経費以外の経費についても、売上金額から控除して、同業者率を算出すべきである。
3 同3について
(一) 昭和五六年分について
(1) (1)のうち、売上の一部は認めるが、その他は否認する(別表5のとおり)。
明石木材株式会社から一五万円を受領したことは認めるが、右金員は、同社が納入した材料に手直しが必要となり、その手直しのための手間代として、同社から原告に交付されたものであるから、原告の売上にならない。
また、売上金額は、原告の手取額を基準とすべきであり、被告主張金額との差額が生じている分は、送金料相当額と思われ、それは必要経費である(以下、各年分について同じ。)。
(2) 否認する。原告は、本件係争各年分の所得につき、経費については、書証を提出しているのであるから、これによって認められる実額で所得を算出すべきである。(以下、各年分について同じ。)
(3)(a) 否認する。原告は、減価償却費についても、書証を提出しているのであるから、これによって認められる実額で所得を算出すべきである。(以下、各年分について同じ。)
(b) 認める。
(4) 争う。
(二) 昭和五七年分について
(1) (1)のうち、売上の一部は認めるが、その他は否認する(別表5のとおり)。
その他の売上のうち、八月二三日に一四〇万円が入金されたことは認めるが、右金員は、松田寿雄に対する売上金額と重複している。一一月九日入金の一三六万円は否認する。
(2) 否認する。
(3)(a) 否認する。
(b) 認める。
(4) 争う。
(三) 昭和五八年分について
(1) (1)のうち、売上の一部は認めるが、その他は否認する(別表5のとおり)。
その他の売上として主張された金員が入金されたことは認める。しかし、そのうち、昭和五八年八月一二日入金の一九〇万円は、原告所有の普通乗用自動車を売却したことによるもので売上金額から除外すべきである。また、同年九月一九日入金の九〇万円及び一〇月二二日入金の六〇万円は、藤井建設工業株式会社に対する売上金と重複している。
(2) 否認する。
(3)(a) 否認する。
(b) 認める。
(4) 争う。
第三証拠
本件訴訟記録中の証拠に関する目録の記載を引用する。
理由
一 請求原因1及び2の事実は、当事者間に争いがない。
二 推計の必要性について
1 被告の主張1のうち、被告の部下職員が原告方を訪れたこと、被告の部下職員から、文書又は電話による依頼があったこと、同職員が昭和五九年二月一三日に原告方を訪れたこと、その調査の際、東播建設労働組合員二名が立ち会ったこと、同年六月一四日に、原告方を訪れた部下職員と面接したこと、昭和六〇年二月一日に原告が明石税務署を訪れたことは、当事者間に争いがない。
2 右争いがない事実に、成立に争いがない乙第三七ないし第三九号証、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第二三号証、証人一川悦之の証言によれば、原告の昭和五五年分、昭和五六年分及び昭和五七年分の所得税の確定申告書は、所得金額のみを記載し、売上金額や必要経費の内容を記載していないものであったこと、そこで、被告の部下職員である一川悦之は、原告の右各年分における所得の正確性の調査のため、昭和五八年一一月一〇日、原告の自宅を訪ねたが、原告は不在であったこと、一川は、応対した原告の長男に対し、調査の理由を告げたうえ、翌日の午前八時三〇分から同九時までの間又は午後四時三〇分から同五時までの間に電話連絡をして欲しい旨記載した連絡メモを交付したこと、一川は、同年一一月二八日、原告方を再度訪れたが、原告が不在であったため、同年一二月一日に調査に伺いたい、都合が悪ければ電話をしてほしい旨の連絡メモを置いていったこと、これに対し、原告は、同月三〇日、一川に対し、電話で、「忙しいから来年にせい。」「忙しいのに税務署ばかりかもておられるか。」などといって、調査のための訪問の約束に応じようとしなかったこと、その後も、一川は、度々、原告方を訪れたが、原告に会うことができず、また連絡のためのメモを置いてきたが、原告と面接のための約束を取り付けることができなかったこと、昭和五九年二月一三日、一川は、初めて原告方で原告と面接することができたので、調査を実施しようとしたところ、原告の外に原告の従業員ではない東播建設労働組合員二名が立ち会っていたので、これらの者の退席を求めたが、原告はこれに応じなかったこと、そのため、一川は、その日は全く調査を進めることができなかったこと、そこで、一川は、原告の取引先等に対する反面調査を行うこととし、その調査を開始したこと、その間、原告側から、原告が病気のため、調査を延ばしてほしい旨の電話による連絡があったこと、この間に、昭和五八年分の確定申告期限を経過したので、一川は、調査対象年度を昭和五六年分から昭和五八年分の三か年分に変更することとしたこと、一川は、同年六月一四日、原告方を訪れ、二回目の面接をし、原告に対し、昭和五六年分ないし昭和五八年分の売上金額、仕入金額及び必要経費等について、説明を求めたが、原告は、反面調査をしたことを非難するのみで調査に全く協力しなかったこと、昭和六〇年二月一日、原告は、明石税務署を訪れたので、一川は、それまでの調査内容を説明し、修正申告をするよう求めたが、原告は、取引先に対する反面調査について抗議の言葉を繰り返すのみであったこと、同月一二日、一川は、原告に対し、電話で、修正申告に応じるよう勧めるとともに、所得金額に不服があれば帳簿等に基づいて説明して欲しい旨述べたが、原告は、これにも全く応じようとしなかったこと、そこで、被告は、推計により原告の所得金額を算定することとし、昭和六〇年三月四日、本件各更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をしたことが認められる。原告本人尋問の結果中、右認定に反する部分は採用することができない。
3 右事実によれば、被告の部下職員である一川は、何度も原告方に赴き、連絡メモを置いたりして連絡を取ろうとしたが、原告に容易に面接することができず、ようやく面接することができたときには、原告が第三者の立会いを要求して直ちに応じようとせず、また反面調査に対して抗議をするのみで、具体的な調査に入ることができなかったのであり、本件更正処分時において、被告が原告の各係争年分の所得の実額を算定することは不可能であったと認められる。したがって、被告としては、推計による課税処分の必要性があったといわなければならない。
4 原告は、被告による調査に際し、第三者の立会いを求めたが、それさえ被告が認めれば、原告には調査を拒否する意思はなかった旨主張する。
ところで、調査権限を有する税務職員は、当該調査の目的、調査すべき事項、申請・申告の体裁・内容、帳簿等の記入保存状況、相手方の事業の形態等諸般の事情に鑑み、客観的な必要性があると判断される場合には、調査の一方法として、納税義務者等に対し質問し、又はその事業に関する帳簿その他当該調査に関連性を有する物件の検査を行う権限を有しているところ、その調査における質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上特に定めのない実施の細目については、質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択にゆだねられているものであり、調査に当たって当該納税義務者以外の第三者の立会いを拒否するかどうかについても、権限ある税務職員の合理的な裁量に任されていると解される。
したがって、前記認定のように、原告の所得について調査の必要があったことが認められるし、その原告に対する税務調査に当たって、被告の部下職員で調査権限を有する一川において、原告以外の第三者の立会いを拒否したこともまた、同人の裁量にゆだねられている調査方法の一つであり、これをもって、直ちに不当なものということができないことは、右に述べたところから明らかである。なお、原告本人は、その尋問の中で、原告に対する調査が実施されたことについて不満を述べているが、調査対象として原告が含まれたことにつき、何ら被告の恣意を認めることができない。
三 原告の所得金額について
1 本件各係争年分の原告の売上金額
(一) 原告の各係争年分の売上金額については、別表5のとおり、被告主張の売上金額のうち一部は、当事者間に争いがない。
(二) 昭和五六年分の売上金額
(1) 明石木材株式会社との取引額
原告は、明石木材株式会社から受領した一五万円は、同社が納入した材料に手直しが必要となり、その手直しのための手間代として、同社から原告に交付されたものであるから、原告の売上にならない旨主張し、原告本人も、同社から購入した材料が悪くて、原告において手直しをした大工の手間賃一五万円を同社から受領したものであると供述(平成元年一〇月三〇日本人調書六丁)する。
しかし、原告が明石木材株式会社から受領した右金員は、同社から購入した木材に瑕疵があり、そのために原告において支出せざるを得なかった大工の手間賃相当額を同社から取得したもので、瑕疵に基づく損害賠償金ないし不当利得金として右金員を取得したものと認められるところ、右のような損害賠償金等も、「収入すべき金額」に計上されるものと解される(所得税法施行令九四条参照)。むろん、原告が購入した材木に瑕疵があり、そのために、大工の手間賃を支出したのであるから、右支出が必要経費として計上されるものであることも言うまでもない。
したがって、明石木材株式会社から原告が受領した一五万円は、原告の売上金額に算入されるべきであると解せられる。
(2) その他の取引額
原告は、売上金額は、原告の手取額を基準とすべきであり、被告主張金額との差額(関西建設工業株式会社分、須磨区民センター共同企業体分、辻建設株式会社分、株式会社山森工務店分)は、送金料相当額と思われ、それは必要経費である旨主張する。
原告の右主張は、取引先(原告に対する大工工事の発注者)との間における工事代金等の約定金額が被告主張のとおりであることを認めた上で、原告主張金額との差額は、代金等を送金してきた取引先が送金料相当額を控除したことによるとの主張であると解せられる。
しかし、所得税法三六条にいう「収入すべき金額」とは、取引の発生に伴う収入すべき金額を意味しており、手取額すなわち取得した現金の額を基準とするいわゆる「現金主義」は、同法の特別の定めがある場合に限られるところ、原告が主張するような場合に、手取額を基準とすることを認めるような規定は存しない。
したがって、売上金額としては、被告主張金額のとおりであると認めるのが相当である。
(三) 昭和五七年分の売上金額
(1) 辻建設株式会社との取引額
官署作成部分については、方式及び趣旨により公務員が作成したと認められるから真正な公文書と推定すべく、その余の部分については、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第三〇号証によれば、辻建設株式会社に対する売上金額は、被告主張のとおり、二四五万一、四四〇円であると認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
(2) その他の取引額
成立に争いがない乙第三五号証及び弁論の全趣旨によれば、姫路信用金庫明石支店の原告名義の普通預金口座に、昭和五七年八月二三日に一四〇万円の、同年一一月九日に一三六万円の、それぞれ入金があったことが認められる。
原告は、右のうち、八月二三日入金の一四〇万円は、松田寿雄に対する売上金額と重複する旨主張する。
しかし、証人堀茂仁の証言により真正に成立したと認められる乙第九号証、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第二七号証、原告本人尋問の結果によれば、松田との取引による同人からの代金の支払は、現金により、同年七月一二日に行われたことが認められる。原告自身、本人尋問(平成元年一〇月三〇日一丁ないし三丁)において、松田からの代金は全額一回で支払われたこと、一般に現金で支払を受けた場合は、すぐ預金口座に入金するか支払に充てるようにしていたことを供述している。ところで、右一四〇万円が原告の預金口座に入金されたのは、八月二三日であるから、七月一二日に松田から支払われた二四〇万円とは別のものであると推認するのが相当である。甲第二〇二号証(松田寿雄の陳述録取書)には、松田が乙第二七号証で述べたことが誤りであるかのような陳述の記載があるが、乙第二七号証に記載された松田の陳述が行われたのが昭和六二年一〇月五日であるのに対し、甲第二〇二号証に記載された陳述が行われたのが、それから丸四年経過した平成三年一〇月九日であることに照らすと、甲第二〇二号証に記載された陳述は、直ちに採用することができない。
したがって、原告の右主張は採用することができず、松田に対する売上とは別に一四〇万円の売上があったと認められる。
なお、それ以外に、被告主張金額と原告主張金額とが異なる売上(関西建設工業株式会社分、須磨区民センター共同企業体分)については、昭和五六年分の売上金額の(2)で説示したところと同様である。
(四) 昭和五八年分の売上金額
(1) 有限会社長田工芸との取引額
官署作成部分については、方式及び趣旨により公務員が作成したと認められるから真正な公文書と推定すべく、その余の部分については、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第三一号証によれば、原告の昭和五八年における有限会社長田工芸に対する売上金額は、二万五、〇〇〇円であると認められる。
(2) 藤井建設工業株式会社との取引額
証人堀茂仁の証言により真正に成立したと認められる乙第一〇、第一一号証によれば、原告の昭和五八年における藤井建設工業株式会社に対する売上金額は、一、五六八万円であると認められる。
(3) 株式会社池内工務店との取引額
証人堀茂仁の証言により真正に成立したと認められる乙第一二号証によれば、原告の昭和五八年における株式会社池内工務店に対する売上金(大工手間賃)額は、四三六万二、二〇〇円であると認められる。
原告は、右売上金額を二八六万二、二〇〇円である旨主張する。しかし、乙第一二号証によれば、株式会社池内工務店に対する同年中の売上金額は、右認定のとおり、あくまでも四三六万二、二〇〇円であり、但し、同年中に同社から支払われた金額が二八六万二、二〇〇円で、残りの一五〇万円は同年中には支払を受けていない未収代金であることが認められる。そもそも、原告の株式会社池内工務店に対する売上金は、大工の手間賃であり、原告は同年中に仕事を完了させているのであるから、同社に対する売上金は、同年中に未だ支払をうけていない分を含め、仕事を完了させた同年における「収入すべき金額」として扱われるものである(所得税基本通達三六-八参照)。したがって、原告の右主張は採用することができない。
(4) 株式会社大棟工芸との取引額
官署作成部分については、方式及び趣旨により公務員が作成したと認められるから真正な公文書と推定すべく、その余の部分については、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第三二号証によれば、原告の昭和五八年における株式会社大棟工芸に対する売上金額は、四九五万九、一二〇円であると認められる。
(5) 昭和五八年八月一二日入金の一九〇万円について
原告は、右金員は、原告所有の普通乗用自動車を売却したことによるもので売上金額から除外すべきである旨主張する。そして、原告本人は、「(右自動車を)姫路における姉の娘婿になる江崎輝昭に売った。」「昭和五八年六月二一日に保険の切替えをした。」「購入したのは五六年の五、六月頃。」と供述している。
原告の右主張は、同日に一九〇万円が原告に入金されたことは認めるが、その趣旨を争うというものである。しかし、甲第二〇一号証によれば、右自動車の登録番号は、「神戸五八ち三五五」であるところ、成立に争いがない乙第二五号証によれば、昭和六二年九月一〇日現在においても、同自動車の所有名義人は、原告のままであることが認められる。このように、いかに売却した相手が親類の者とはいえ、四年以上もの間、登録名義を自己のままにしているというのは不自然であり、その売買の成立につき強い疑問を抱かざるをえない。したがって、原告の供述は直ちに採用することができず、原告の右主張も失当である。
したがって、右一九〇万円の入金も原告の売上であると推認するのが相当である。
(6) 昭和五八年九月一九日入金の九〇万円及び同年一〇月二二日入金の六〇万円について
原告は、右金員が入金されていることは認めているが、右金員は藤井建設工業株式会社に対する売上と重複している旨主張する。
しかし、前掲乙第一〇、第一一号証によれば、右入金に係る金員は、被告が同年中における藤井建設工業株式会社に対する売上として主張している中には含まれていないことが認められる。
したがって、右各金員は、藤井建設工業株式会社に対する売上とは別個の売上であると推認するのが相当である。
(7) その他の取引額
以上の外、被告主張金額と原告主張金額とが異なる売上(関西建設工業株式会社分、須磨区民センター共同企業体分、株式会社山森工務店分)については、昭和五六年分の売上金額の(2)で説示したところと同様である。
(五) 以上によれば、本件係争各年分における原告の売上金額は、被告主張のとおりであると認められる。
2 算出所得金額(売上金額から売上原価及び一般経費を控除したもの)
(一) その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第一ないし第八号証、証人堀茂仁の証言によれば、被告は、原告の本件係争各年分の所得金額を算出するため、大阪国税局長を通じ、原告の事業所の所在地(神戸市西区神出町広谷三七八の八二)を管轄する明石税務署並びにその隣接地域である須磨、加古川、三木の各税務署長に対し、右各税務署管内の個人の納税者のうちから、青色申告により所得税の確定申告をしている者で、係争各年分を通じて、<1>大工工事業(但し、型枠大工工事を除く。)を営んでいること、<2>他の業種目を兼業していないこと、<3>年間を通じ、継続して事業を営んでいること、<4>事業所が須磨、明石、加古川、三木の各税務署管内にあること、<5>売上金額が昭和五六年分二、九〇〇万円以上一億一、四〇〇万円未満、昭和五七年分三、八〇〇万円以上一億五、二〇〇万円未満、昭和五八年分四、三〇〇万円以上一億七、一〇〇万円未満(原告の売上金額を基準として、下限を約二分の一、上限を約二倍としたもの)であること、<6>不服申立て又は訴訟係属中でないこと、の六条件をすべて満たす同業者を抽出したところ、これに該当する同業者は、昭和五六年分については一一名、昭和五七年分及び昭和五八年分については各七名存在するという結果が得られたこと、右各税務署長から送付された調査票に基づき、同業者所得率(売上金額から売上原価及び一般経費を差し引いた金額の売上金額に対する割合)の平均値(同業者平均所得率)は、別表2ないし4のとおり、昭和五六年分が一一・〇二パーセント、昭和五七年分が一一・一六パーセント、昭和五八年分が一〇・〇〇パーセントとなることが認められる。
(二) 右事実によれば、原告の所得を推計するための算出所得率を算定する目的で、被告が考案した同業者の選定基準は、業種が原告のそれと同一であり、事業場所も原告の事務所がある明石市に隣接する税務署管内の業者であって近接しているし、事業規模も比較的近似している業者となっているなど、同業者の類似性を判断する要件としては、合理的であると認められ、ここに被告の恣意が入り込む余地はないと認められる。また、右同業者として選定された者は、いずれも年間を通して事業を継続している青色申告者であり、かつ、その業者の数値は、大阪国税局長を通じて各税務署長から報告されたもので、資料の正確性も担保されていると認められる。その上で選定された同業者は、昭和五六年分が一一名、昭和五七年分及び昭和五八年分が各七名であるから、その所得率を平均することにより、個々の同業者の個別性、特殊性を捨象し、客観的な同業者の所得率を得るのに十分な件数であると認められる。
(三) 原告は、本件訴訟において、右同業者の選定基準を争っている。しかし、本件において推計課税が必要とされたのは、前記認定のとおりの経過により、所得の実額を算定することができなかったためであり、この推計により得られた近似値を真実の所得金額として取り扱うものであるから、同業者の所得率による推計を行う場合にも、業種、営業規模等において同業者と原告とが完全に一致する必要はなく、類似する同業者を数名選出し、その所得率を平均化することにより、個々の同業者の個別性、特殊性を捨象することができるから、このような手法により、同業者率を算定することは、合理的なものといわなければならない。
そして、被告において選定した同業者と原告とが類似性を有することは、前記認定の同業者の選定基準から明らかである。
なお、被告は同業者の選定対象税務署として、隣接する税務署の中から兵庫税務署を除外している。この点について、証人堀茂仁は、兵庫税務署管内は、その主体が神戸市の中心部であって、原告の事業所がある場所とは経済圏が異なるという理由で除外した旨証言しており、その理由には合理性を認めることができるから、隣接する税務署から兵庫税務署のみを除外したことをもって、本件における同業者の選定が誤っていたということはできない。
また、原告は仮に三年分まとめて売上の最低限二、九〇〇万円、最高限一億七、一〇〇万円とした場合、同業者率はもっと低くなるはずである旨主張する。
しかし、被告が主張する同業者率は、原告と同業者との事業規模を、各年分毎に、売上金額の上限を原告のそれの二倍、下限を原告のそれの二分の一とし、この範囲内に属する者を対象としたもので、各係争年毎によりきめ細かい基準によったと評することができるから、被告の採用した手法は、原告が主張する方法よりも合理性があるものといわなければならない。
(四) 被告は、同業者所得率の算定に当たって、青色専従者給与の支払がある者について、妻以外の専従者に支払った給与は売上原価に算入したが、妻に対する専従者給与については必要経費に算入していない。
所得税法五六条は、事業から対価を受ける親族がある場合に、これを必要経費として算入することを認めないという原則を定め、同法五七条において、例外的に青色申告者において、一定の青色専従事業者に給与を支払った場合(同条一項)及び白色申告者において、一定の専従者につき四〇万円を限度として(同条三項、但し、昭和五九年法律第五号による改正前のもの)、必要経費に算入することができるとしている。
本件で選定された同業者はいずれも青色申告者であるのに対し、原告は白色申告者であるから、「同業者所得率」の算定に当たっては、その各同業者が支払った青色専従者給与を、必要経費から除外することが相当である。すなわち、同業者が支払った青色専従者給与を、そのまま必要経費に算入して同業者所得率を算定することとすると、元来、白色申告者である原告は、申告により四〇万円の範囲の金額しか必要経費として認められないのに、必要経費の計算上、青色申告者と同じ扱いを受けることになり、その結果、原告の所得金額を推計する上で有利な取扱いを受けることになってしまうからである。
したがって、同業者の所得率を用いて原告の所得金額を推計するに当たり、同業者が支払った青色専従者給与を必要経費から控除した手法は相当であるといわなければならない。
(五) 原告は、売上原価及び一般経費以外の経費についても、同様に売上金額から控除して同業者率を算定すべきである旨主張する。
たしかに、被告が用いた同業者平均所得率は、売上金額から売上原価及び一般経費の金額を控除した金額の売上金額に対する割合である。このように、被告主張の方法は、必要経費のうち、売上原価及び一般経費については、同業者平均所得率を用いて推計により、これを控除するというものであり、売上原価及び一般経費以外の経費、すなわち特別経費については、これを実額で控除するという方法である(なお、後述のように、本件では特別経費のうち、建物減価償却費については、原告の建物取得価額が不明であったとして、推計により算出されている。)。
しかし、売上金額を基礎として、同業者の所得率を使用して納税者の所得を推計により算定するということは、逆に言うと、当該納税者の経費を推計することを意味するのであるが、この推計の対象とすべき経費は、売上金額と概ね比例関係にあるもの、すなわち売上原価及び一般経費に限定されるべきであり、経費のうち、売上金額と直接比例関係にないと認められる特別経費、すなわち、売上金額の増減に直接関係ないと推認される利子割引料、地代家賃、貸倒金、建物減価償却費、税理士報酬等については、同業者の所得率に基づく推計の対象としないことが相当であって、これらの経費は、できる限り実額で控除するのがより合理的である。
したがって、被告が採用した推計の方法に、不合理な点はないと認められる。
(六) 原告は、本件係争各年分の所得の算出に当たり、売上金額については、被告主張の金額のうち、一部について否認するのみで、その大部分については特に争っていないが、売上原価及び一般経費の額については、多数の甲号証を提出して、右各証拠によって認められる実額により、各年分の所得金額を算出すべきである旨主張する。
ところで、既に述べたとおり、推計課税は、納税者の帳簿不提示や、所得調査に協力しないため、やむを得ず、間接的な資料により真実に近似した額を推計し、これをもって真実の所得額と認定する方法であり、実額による課税と同様に真実の所得額を認定するための一方法であって、課税庁において、推計課税の合理性につき立証をした場合には、特別の反証のない限り、推計により得られた額をもって真実の所得額と認定するものである。したがって、納税者がする実額による反証が有効なものとなるためには、立証しようとする実額が真実の所得額に合致し、推計は不要であるとすることに合理的な疑いを容れない程度に達することを必要とすると解すべきである。
本件において、原告は、売上金額については、被告主張の金額の一部を否認してその大部分については争わず、経費についてのみ実額を主張立証しているのであるが、そもそも被告においては、売上金額に関し、限定的な資料しか入手することができず、これを限定的に把握することができたに過ぎないものであるから、その金額から経費のみを実額で差し引くことにより算出される金額が所得の実際の額に近似する数値でないことは明らかである。したがって、本件では、原告は、売上金額についても、すべての取引先に対する総売上金額を主張立証すべきであり、原告主張の売上金額の他にも売上金額が存在する可能性を認められるときには、原告が経費に関する実額のみを主張立証するだけでは、被告の推計による所得金額の認定を覆すに足りる有効な反証とはならないと解するのが相当である。
ところで、被告主張の売上金額は、原告の取引先に対する調査及び姫路信用金庫明石支店における原告本人名義の預金口座への入金のうちから、売上代金の入金として認定したものの合計金額であること、そして、被告において把握することができた売上金額は、本件更正処分等の時点から異議決定の時点、さらに本件訴訟の時点と次第に増加していることは、弁論の全趣旨及び成立に争いがない乙第三四ないし第三六号証から明らかである。
これに対し、原告は、被告主張の売上金額について、別表5記載のとおり主張するのみで、これを裏付ける帳簿、書類等の資料を全く提出していない。他方、原告本人の供述によれば、売上代金の支払として受領した手形又は小切手を、預金口座に入金しないで、そのまま支払に充てたこともあったというのであり(原告本人平成元年五月二九日付尋問調書三丁、三二丁)、甲第一五号証、第一五〇号証の二、第二〇〇号証の一一の一によれば、取引先に対し、現に手形又は小切手で支払われたものもあったことが認められ、これらの金額は本件訴訟で被告が主張していない金員であることは明らかであるから、被告主張の金額のみでは、原告の売上金額をすべて把握したことにならないと推認することができる。
これらの事実によれば、被告が取引先に対する調査及び原告の預金口座への入金に基づいて主張し、原告も認めた売上金額の他にも売上金が存在した可能性が十分にあると認められるから、原告が経費について実額を主張することは合理性を欠くものであり、推計による所得額の算定に対する有効な反証とはならないといわなければならない。
(七) したがって、前記1の売上金額に、右同業者平均所得率を乗じて、原告の本件係争各年分の算出所得金額を算定すると、被告主張のとおり、昭和五六年分が六三〇万二、六四〇円、昭和五七年分が八四九万〇、四一七円、昭和五八年分が八五六万六、一八二円となる。
3 特別経費について
(一) 原告の本件係争各年分の所得の算定につき、特別経費のうち、支払利息は、各年分とも、当事者間に争いがない。
(二) 前掲乙第一ないし第八号証、証人堀茂仁の証言によれば、被告は、建物減価償却費として、原告が所有する事業用建物の取得価額が不明であったため、これを推計により算定するとしたこと、そして、前記同業者平均所得率を算出したと同様に、各税務署長からの回答を基礎として、売上金額に対する建物償却費の割合を算出することとし、別表2ないし4の「同業者率明細表」記載の同業者で建物減価償却費のある者の「建物償却費率」(売上金額に対する建物償却費の割合)の平均値を(建物償却率)を算出したこと、この値を前記の原告の売上金額に乗じて算出すると、昭和五六年分が二二万八、七七一円、昭和五七年分が一五万二、一五八円、昭和五八年分が五一万三、三七一円となること、が認められる。
本件における同業者の選定が合理性を有するものであり、右数字の基礎となった資料の正確性についても問題はなく、推計に合理性が認められることは、既に述べたとおりである。
したがって、右建物償却率に基づき、建物減価償却費を算出したことは相当であると認められる。
4 以上によれば、本件係争各年分の原告の事業所得金額は、本件訴訟において被告が主張する金額(昭和五六年分が五三四万七、六一五円、昭和五七年分が七八八万八、〇一〇円、昭和五八年分が七六五万三、六五三円)となることが認められる。
四 よって、本件更正処分等は、右に認定した本件係争各年分の各事業所得金額の範囲内で行われたものであって、いずれも適法であり、原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 辻忠雄 裁判官 吉野孝義 裁判官 北川和郎)
別表1
課税の経緯
<省略>
別表2
同業者率明細表(昭和56年分)
<省略>
別表3
同業者率明細表(昭和57年分)
<省略>
別表4
同業者率明細表(昭和58年分)
<省略>
別表5
(昭和五六年分)
<省略>
(昭和五七年分)
<省略>
(昭和五八年分)
<省略>